名医に聞く

横浜市立大学 形成外科  
前川二郎 先生
 

1.リンパ浮腫治療に携わることになったきっかけ、これまでのご苦労

約35年前に、マイクロサージャリーによるリンパ浮腫の新たな治療法が海外で発表されことを知り、別な分野でマイクロサージャリー手術をしていた自分にとって日本にこの手術を導入できると考えたのがきっかけ。当時はリンパ管内のリンパの流れが可視化できなかったので、手術結果が見えなかったことがもっとも苦労したこと。これは7年前に開発された浜松ホトニクス社製PDEカメラによる蛍光赤外リンパ管造影で解決した。

2.前川先生が推進するリンパ浮腫治療の特徴と魅力

上記、リンパ管の可視化がある程度可能となり、またSPECT-CTリンパ造影などあらたなリンパ機能を評価する診断法が開発され、今まで以上に詳細なリンパ機能評価が可能となった。血液と違って透明なリンパ液の流れを新しい診断法により掴むことで、種々の新たなリンパ浮腫治療法が開発される時が来たと思う。また、マイクロサージャリーによりリンパ浮腫の治療がより進んだことは、この分野を得意としている日本人が活躍できる場が増えたと考えます。

3.リンパ浮腫治療による国際医療交流についてのお考え

世界中で数億人のリンパ浮腫患者が存在すると言われているが、多くは十分な治療を受けずにいます。まず、その様な人々にリンパ浮腫の基礎的な治療を届けることができるよう、国際医療交流によって世界に伝えていきたい。また、日本ではマイクロサージャリーを使ったリンパ管静脈吻合術という特殊な外科技術を持ってリンパ浮腫の治療が可能であり、海外からの患者さんを受け入れていきたい。

4.リンパ浮腫治療の今後の見通し、将来像(夢・目標)

今年8月から、外科治療以外に再生医療(HGF遺伝子治療)によるリンパ浮腫治療の臨床応用を開始した。今後はこの様な新たな医療を含めた総合的なリンパ浮腫治療を行って行きたい。

5.リンパ浮腫治療を受けたい外国人患者さんへ向けたメッセージ

現在、リンパ浮腫治療で最も効果があるのは、合併症が少ない外科療法であるリンパ管静脈吻合術と保存療法との併用です。日本ならではの最新のリンパ浮腫診断と手術技術を駆使して、最善の治療効果を提供したいと考えています。

名医に聞く

放射線医学総合研究所フェロー 
辻井博彦先生
 
粒子線がん相談クリニック

1.重粒子線治療に携わることになったきっかけ

もともと国際的なことに興味があったこともあり、北海道大学医学部を卒業後、「セントビンセント癌医療センター(米国・ニューヨーク市)」の放射線治療レジデントに応募して採用されました。今から思い起こしますと、全てのことがこのニューヨーク行きがきっかけとなったように思います。1974年に帰国し、北海道大学医学部の放射線科に勤務しましたが、その在職中に恩師の先生からお誘いを受け、米国ニューメキシコ大学とスイスのポールシェラー研究所に留学し、パイ中間子治療プロジェクトに参画することとなりました。パイ中間子とは、湯川秀樹先生がその存在を予言したことによりノーベル物理学賞受賞に繋がった素粒子の一つで、線量分布の特性(スター形成)でがん治療に応用されたものです。なお、米国のパイ中間子治療はニューメキシコ州ロスアラモスで行われましたが、ここは原爆開発で有名な「マンハッタン計画」の舞台となった所でもあります。ここでパイ中間子治療プロジェクトに参画したことは、重粒子線治療に携わる決定的な出来事となりました。  

渡米してパイ中間子線治療プロジェクトに携わった関係で、1989年には筑波大学の陽子線医学利用研究センター長となり、世界で初めて深部がんに対する陽子線治療に取り組みました。当時の陽子線治療は、眼や頭蓋底など限られた部位しか治療していない状況でしたので、肺、肝臓、食道、子宮などの深部治療を試みることは、世界でも新しいことだったのです。そして、1994年には放射線医学総合研究所の重粒子医科学センター病院長に就任し、今度は世界で初めての炭素イオン線による治療に挑戦することとなりました。

2.重粒子線治療の特徴と魅力

重粒子線治療の一番の魅力は、やはり生物学的な効果が高いことだと思います。重粒子線は、単に線量分布が優れているだけでなく、体内で深くなるほど治療効果を発揮するという特性を持っていますので、他の粒子線治療と比較しても重粒子線治療は手応えに格段の差があります。実際、放射線医学総合研究所の症例数も8,000例を超えるレベルに増加するとともに、様々な学会でも報告しています。適応疾患としては、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、膵がん、前立腺がん、直腸がんの手術後再発、骨軟部腫瘍などで、5年生存率、局所コントロールとも他の治療法と比較して優れた成績を収めています。重粒子線治療自体についても、絶えず照射方法、投与線量、固定方法などの研究を重ねています。例えば、肺がんで最初は18回照射だったものが今では1回で済み、肝臓がんでは20回が2回、前立腺がんでは20回が12回になるなど、飛躍的な照射回数の減少につながっています。これにより患者さんの身体への負担、QOLが日進月歩で大きく飛躍してきているのです。

3.重粒子線治療による国際医療交流について

重粒子線の治療装置は大変高額ですが、世界中で重粒子線治療が普及すれば価格も低下するでしょう。すると多くの患者さんに重粒子線治療を提供できるという好循環が生まれると考えています。重粒子線治療が普及するためには、世界中の患者さんにこの重粒子線治療を知っていただくことが重要です。がんが発見されたら、外科や内科に相談すると同時に、重粒子線治療も選択肢としてあるのだということを知っていただけたらと思っています。これは、世界中の患者さんにも対してもそうですし、世界中の医師にも言えることです。重粒子線治療はいろいろな種類のがんに有効で、極めて患者さんに優しい治療を行うことが可能なのです。

4.重粒子線治療の今後の見通し、将来像(夢・目標)について

治療としては当たり前ですが、重粒子線治療によって局所を治癒させ、その結果として長期生存に繋がるということを追求していく。そのためには、重粒子線治療だけに拘らないで、他の術式・治療法と組み合わせていく必要もあると思っています。

一方、重粒子線治療において、深部がんの治療に挑戦してきましたが、さらに多くの部位や症例に適応となるような治療にしていくことが一つの目標です。いずれにせよ、重粒子線治療の普及を後押しするためにも、国内はもちろんのこと、世界各国に出かけて重粒子線治療の素晴らしさをさらに広めていきたいと考えています。

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名医に聞く

臼井直敬先生
独立行政法人国立病院機構 静岡てんかん・神経医療センター

1.てんかん外科治療に携わることになったきっかけ、これまでのご苦労

今から15年以上前、静岡東病院(てんかんセンター、現在私が勤務している静岡てんかん・神経医療センター)で三原忠紘先生、井上有史先生をはじめとする、てんかん外科のパイオニアの先生方にお世話になったのが、私がてんかんの外科治療にかかわることになったきっかけです。

以来、この分野の奥深い魅力にとりつかれて現在に至っています。外科手術によって発作がよくなる患者さんは大勢いますが、その一方、手術しても発作がよくならない方もいます。この仕事での苦労を感じたことはありませんが、長期的な視点で患者さんを支援してゆくことが何より重要と感じています。

2.臼井先生が推進するてんかん外科治療の特徴と魅力

治療によって、患者さんがそれまで苦しんでいた発作から解放されて生活が送りやすくなり、不安から解放されることが、私たちにとってもなによりの喜びであり、てんかん外科治療の一番の魅力です。

 

手術を正確に安全に行うのは当然のことですが、外科治療の成功のためには、まず手術に先だち、個々の患者さんの脳のどの部位から発作が起きているかを特定することが必要不可欠です。そのため、詳細な病歴、発作症状の聴取、ビデオ脳波同時記録、頭部MRIなどの画像診断、神経心理学的検索などを施行します。最新の検査機器も有用ですが、なによりもまず、発作症状について詳細に聴取、観察することがとても重要です。必要な患者さんでは、頭蓋内に脳波電極を留置して検査を行うこともあります。このように、当院の外科治療の特徴のひとつは、術前評価を徹底的に行い、極力正確な焦点診断を心がけていることといえます。

 

もうひとつの当院の特徴は、包括医療への取り組みです。てんかんの外科治療の究極的な目的は、患者さんの生活の質(Quality of life: QOL)の向上ですが、手術で発作が止まってもQOLの向上に結び付かないこともあります。手術後のQOLの向上のためには、単に発作を抑制するだけでなく、包括的に患者さんを支援することが必要です。当院では、精神科医、神経内科医、小児科医、看護師、ソーシャルワーカー、リハビリスタッフなどの多職種によるチームで包括的支援に取り組んでいます。外科医単独ではなく、多職種の協力のもとで取り組んでゆけるのもこの分野の大きな魅力と感じています。

3.てんかん外科治療による国際医療交流についてのお考え

外科治療でよくなる可能性があるにもかかわらず実際には治療を受けるにいたっていない患者さんが、日本でも多くいるものと思われますが、海外でもかなりいると推測されます。てんかん発作がなかなか薬でコントロールされない患者さんでは、外科治療の可能性があるかどうか、検査入院を行って調べる意義は非常に大きいと考えます。単に切除手術適応の有無についての判断のみでなく、それまでの治療の見直しや、新たな治療選択肢の提示、という意味でも検査入院は意義があるものと考えています。。

4.てんかん外科治療の今後の見通し、将来像(夢・目標)

てんかん外科治療の今後の見通し、将来像としては、大きく2つの点を考えています。ひとつはさらなる焦点診断の進歩と治療成績の向上です。MRIで病変が見つかった患者さんでは、手術後に発作がよくなることが多いのですが、MRIで明らかな病変がみられない方の場合は、手術しても発作がよくならないことも多いのが現状です。今後の研究によって、このような治療の困難な患者さんの治療成績を改善することがひとつの目標です。

 

もうひとつは、先ほども述べた包括医療への取り組みです。てんかんの外科治療では、術前から術後まで、継続的な支援が行えることが重要ですが、そのような支援がどこでも可能というわけではありません。当院がそのような包括医療の見本となるべく取り組んでいます。

5.てんかん外科治療を受けたい外国人患者さんへ向けたメッセージ

当院では、診断、治療、術後の経過フォローまで、最良のてんかん外科治療を提供できると考えています。まず、手術の可能性があるかどうか、検査入院して調べる意義は非常に大きいと考えています。人生が大きく変わる可能性もあります。また、手術できる、できないにかかわらず、てんかん専門医の診断を受ける意義は大きいので、治療に難渋されている患者さんには、ぜひ一度、当院での検査入院をお勧めします。

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